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短編「運命の女」

     1

「かしこまった挨拶はやめにしましょうよ、町田さん」
 休日にもかかわらずスーツ姿で訪ねてきた町田浩一を見て、ぼくは苦笑した。スーツ姿にではなく、しゃちほこばった顔にだ。
「いや、こういうことはケジメが肝心だからね、ケジメが」
 町田は手刀を切りながら玄関を通ってリビングのソファに腰かけ、身長百八十を超える巨体を誇示するように背筋を伸ばした。
 ぼくが四人掛けのソファに相対して座ると、妹の由希子はどちらの隣に並ぶべきが少し迷ったすえ、ぼくの隣に腰をおろした。
「こういう場合、おまえはあっちじゃないの?」
 ぼくが町田の隣を指さすと、
「そうか、そうだね」
 由希子はひきつった笑みを浮かべ、反対側の席に移動した。
 町田は遠慮がちに肩を並べた由希子に愛おしげな一瞥を送り、
「これ、きのう二人で買いにいったから」
 と、小さな黒いベルベットの箱をとりだし、テーブルの上で蓋を開けた。
 永遠の輝きを誇るダイヤの指輪。
 予想していたより大きな粒で、ぼくは二百万と見立てた。町田はぼくより二つ年上の二十七歳。由希子が派遣で働いている文房具メーカーの正社員だ。正社員といってもそれほど高給なわけではないだろうから、給料の三倍はゆうに超えるだろう。町田の由希子に対するまっすぐな愛情がまぶしかった。
「そういうわけで……」
 町田は両膝をつかんでもう一度背筋を伸ばし、いささか芝居がかった、けれども緊張のみなぎる顔で言った。
「晴之くん……いや、お兄さん……由希子さんをぼくにください」
 股間に顔がつくほど深々と頭をさげる。
「やめてくださいってば、もう」
「照れないでくれよ、晴之くん。きみは由希子さんの親代わりなんだから」
「べつに親代わりってわけじゃないですけど……」
 ぼくは苦笑しながら由希子を見た。珍しいこともあるものだ。いつもは快活すぎるほど快活な娘なのに、凛々しい双眸をしおらしく伏せ、健康的に発達した四肢を小さく丸めている。さすがに結婚となると緊張するのだろうか。
 由希子は二十二歳。ぼくより四つ年下だ。ぼくが中一、由希子が小三のとき、突然の交通事故で両親を亡くしている。親戚の家のたらいまわしや施設や、そういった境遇の子供にありがちな道を歩んで育ち、六年前に二人で東京に出てきた。ぼくは大学にはいかなかったけれど、コンピュータのテクニカルライターとしてそれなりに稼ぎがあり、由希子を短大まで行かせることができた。だがそんなことは美談でもなんでもない。たまたま割りのいい仕事があり、金があったからそうしたのであり、なければ二人で力を合わせて貧乏に耐えただけのことだ。
「とにかく」
 町田は宣言するように言葉を継いだ。
「きみも由希子さんも、いままで半端じゃなくしんどい人生を送ってきたわけで、これからはぼくが……ぼくが由希子さんを絶対に幸せにする。晴之くんも、兄貴ができたと思って、困ったことがあったらなんでも相談しにきてくれ」
「わかりました。ふつつかな妹ですが、よろしくお願いします」
 ぼくは表情を引き締めて頭をさげた。
 ぼくが町田を頼りにする局面などあるだろうかと思ったが、誠意には誠意で応えなければならない。高校時代ラグビーで花園に行ったことが自慢の町田は典型的な体育会系の人間で、要するに単純な男だった。最初に紹介されたとき、妹にはそういう男が似合っているのかもしれないと思った。由希子はあらゆる意味で複雑すぎる。
 二人は三十分ほどで席を立った。
 これから仲人のところに挨拶に行き、夕食をともにするらしい。
「お兄ちゃん、ごめん。冷蔵庫のなか、なんにもないや」
「適当に食うさ。たまには一人で外食も悪くない」
「ごめんね」
 由希子は申し訳なさそうに言いつつも、珍しくめかしこんだ自分の衣服のほうに気をとられていた。先週一緒に買いに行った、ひらひらした花柄のワンピース。裾が短めなので、しきりに気にしている。よく似合ってるよと耳打ちすると、由希子は顔を真っ赤にして、今度はストッキングが伝線していないかを念入りに点検しはじめた。
 マンションの部屋から二人を送りだした直後、ぼくは靴箱の上にネックレスが置き忘れてあることに気がついた。本当におっちょこちょいなやつだ。服と一緒に先週買ってやったものなのに、なぜこんなところに忘れていくのだろう。
 サンダルをつっかけ、エレベータホールへ急いだ。
 ぼくたちの部屋があるのは十階建ての七階で、ひとつしかないエレベータはたったいま閉まったはずなのに、上に向かって上昇していき、「R」の文字でランプが停まった。
 このマンションの屋上からはとてもきれいな夕陽が見える。
 これから結婚しようとしている男と女が、オレンジ色に燃えあがる夕陽を眺めながらすることといえばひとつしかない。
 ぼくは踵を返そうとして、立ちどまった。
 部屋に戻るべきだともうひとりの自分が訴えていたけれど、非常口の扉を開け、階段で上を目指した。
 足音を殺して屋上の扉に近づき、ほんの少し開けた。
 町田と由希子は、十メートルほど離れた鉄柵沿いで抱き合っていた。
 熱い抱擁だった。
 だが、普通の男女の抱擁とはいささか様子が違った。
 大柄な町田が情けなく腰を折り、その頭を由希子のほうが抱きしめるようにして、スポーツ刈りの髪をやさしく撫でている。
 やれやれとぼくは胸底で溜め息をついた。
 思っていたとおり、町田は女に甘えたがるタイプの男だった。女に母親を見ようとする、一種のマザコンだ。体育会系の厳つい躰で質実剛健な態度をとっていても、ひと目見たときからそんな雰囲気が漂っていた。
「緊張しちゃったのね、浩ちゃん」
 由希子の声が風にのって耳に届く。
「でも、大丈夫。お兄ちゃん、浩ちゃんのこと気に入ってくれてるから」
「そうかなあ。おれ、自信がないよ。晴之くん、すごく頭よさそうだし、兄貴風吹かせて嫌われなかったかなあ」
「大丈夫よ。だから早く、仲人さんのところに行きましょう」
「わかってるよ。でも、ああっ、もう我慢できない」
 町田が獣欲も露わに、由希子の唇を奪った。
「待って。乱暴なことしないで」
「ああっ、でも我慢できないんだ。もうこんなになってるんだ」
 興奮を伝えるように、膨らんだ股間を由希子の腰を押しつけていく。
「しようがないなあ、もう。お口でしてあげるから、それで我慢してね」
 由希子は溜め息まじりに言うと、ひらひらしたワンピースの裾をからげ、町田の足もとにしゃがみこんだ。スーツの前ボタンをはずし、ズボンとトランクスをおろし、いきり勃つ男の欲望器官を唇で包みこんだ。ねっとりとヌメりつく唾液が、はちきれんばかりにみなぎった勃起に淫らな光沢を与えていく。
 らしくない……。
 ぼくは胸底でつぶやいた。
 由希子、そんなのおまえらしくない……。

     2

 由希子は子供のころから可愛かった。なにも取り柄がなかったぼくにとって、たったひとつの自慢だった。さらさらの黒い髪、大きくてつぶらな瞳、くっきりと整った目鼻立ち。どこに行ってもいちばん目立っていた。
 そして、手に負えないおてんばだった。
 両親を亡くす前までは、元気で快活、だったが、亡くしてからは、かんしゃくもちのきかん坊になった。
 引きとられた親戚の家で、施設で、学校で、男の子相手でもすぐにとっくみ合いの喧嘩を始め、喧嘩相手がいない場合は物を壊した。
 滅茶苦茶だった。
 ただ、ぼくにだけは逆らわず、手もあげなかった。それだけが救いと言えば救いだったけれど、両親を亡くしてから数年間、ぼくは毎日のように大人たちに頭をさげていた。
「……あたしは悪くないよ」
 二人でこっぴどく叱られたあと、由希子はいつもそう言って挑発的に頬を膨らませた。ぼくは由希子を咎めなかった。由希子が自分でも制御しきれない暴力的な衝動にとらわれていることはわかっていたし、どうせあしたもまた誰かに謝るのだろうと思うと、咎める気も失せた。
 由希子のおてんばが少し治まったのは、両親を失ってから二年後、ぼくが中三、由希子が小五のときだった。
 そのとき、ぼくらは田舎の町の施設にいた。燃えるような夕陽が地平線に沈む町だった。それを背中に背負ってとぼとぼと学校から帰ってきた由希子を、ぼくは施設の庭の草むしりをしながら出迎えた。
「ねえ、お兄ちゃん」
 由希子は鼻をもちあげた生意気な顔で言った。
「学校で、誰もあたしと口きいてくれなくなった。男子も女子も先生も、全部」
「そうか……」
 ぼくは哀しげに微笑んだ。おまえにも悪いところがあるなどとは口が裂けても言えなかった。悪いのは由希子ではなく、運命だ。
「でも、お兄ちゃんがいるからいいじゃないか。おれがいくらでも口きいてやるよ」
「一緒に遊んでくれる?」
「いいさ」
 ぼくは草むしりの鎌を地面に放った。
「なにして遊ぼうか」
「お姫様ごっこ」
「なんだい、そりゃあ?」
「お姫様が悪いやつにつかまって縄でぐるぐる巻きにされるの。で、そこに正義の味方が現われて悪いやつをやっつけてくれるのよ、簡単に言えば」
 小学校で、そんなアニメだかヒーロードラマが流行っていたらしい。
 ならばもうひとりキャストが必要な気がしたが、調達できそうもなかった。学校で全員に無視されるずっと前から、由希子は施設の人間をひとり残らず敵にまわしていた。ぼくが一人二役を務めるしかないだろう。
 由希子をうながして、薄暗い納屋に行き、埃っぽい荒縄でぐるぐる巻きにした。
 ふくらみかけたブラウスの胸もとを縄で縛るとき、ぼくは言いようのない妖しい感情を覚えた。躰中の肌が泡立ち、血液が逆流していくのを感じた。
 しかし、由希子の変化はそれ以上だった。
「お兄ちゃん、あたし変だよ……」
 上半身に荒縄を巻きつけられ、身動きができなくなった瞬間、由希子は感極まったようにぶるぶると震えだし、幼い顔をくしゃくしゃに歪めた。
 恐怖を感じているのかもしれないと、ぼくはあわてて縄をとこうとしたが、
「とかないでっ!」
 由希子は叫び、ぶるぶると震えながら嗚咽をもらしだした。ぼくは固唾を呑んで「ひっ、ひっ」と喉を鳴らす妹を見つめていることしかできなかった。
「ごめんなさいっ!」
 突然、由希子が叫んだ。
「あたし、いけない子でごめんなさいっ! お兄ちゃんに迷惑ばっかりかけてごめんなさいっ!」
「いや……迷惑なんて思ってないから」
 ぼくは由希子の切迫した表情に気圧されながら答えた。
「ううんっ! あたし、いけない子なのっ! 迷惑な子なのっ! わかってるけどどうしようもないのっ! ごめんね、お兄ちゃんっ!」
 最後のほうは嗚咽でなにを言っているのかわからなかった。
 抱きしめてやればよかったが、そのときのぼくにはできなかった。
 べつに兄と妹であっても、感情を分かち合うために抱擁することが悪いことだとは思わない。妹の躰を抱きしめることに禁忌を覚えたわけではない。そうではなく、そのときぼくは欲情していた。荒縄に縛られ、泣きじゃくりながら許しを乞う妹に狂おしいほど欲情し、ズボンを突き破らんばかりに勃起していた。ぼくは自分がおぞましかった。
「ねえ、お兄ちゃんっ! いけない由希子にお仕置きしてっ! してっ!」
 乞われるままに、ぼくは由希子の尻を何度か叩いた。
 そのときは、ただそれだけのことだった。
 縄をとくと由希子はひどくすっきりした顔になり、それから照れて顔をあげられなくなって、翌日からは喧嘩をしなくなった。
 物も壊さなくなった。
 ぼくは大人たちに頭をさげない日々の到来を歓迎し、血の繋がった妹に欲情した自分を恥じた。
 しかし、お仕置きの効果は二週間くらいしか続かなかった。
 由希子は二週間ぶん溜めこんだエネルギーを爆発させるような大騒動を起こし、そして、米つきバッタのようにあちこちで頭をさげてきたぼくに、再びお仕置きを求めた。
 ぼくはそれに応え、以降あらかじめガス抜きをするつもりで、週に一度の割合で由希子を納屋に呼びだし、荒縄で縛るようになった。
 もちろん、ガス抜きなんて都合のいい言い訳だ。自分を騙すためのレトリックだ。
 ぼくは妹に欲情していた。必然的にお仕置きの内容はエスカレートしていった。
 最初はスカートの上から尻を叩き、次にはパンツの上からになり、やがて生身の尻肉をビンタするようになった。
 自分でも異常と思えるほど興奮した。
 むき卵のようにつるりとした由希子の尻をビンタするたびに射精にも勝る快感を覚え、実際にパンツのなかをカウパーでぐっしょり濡らした。
 両親を亡くしたことで由希子が手に負えないおてんばになってしまったように、ぼくのほうも尋常ならざるダメージを精神に受けていたとしか思えない。

     3

 由希子はその夜、ひどく酔って帰ってきた。
 由希子は酒が強くない。いや、ほとんど飲めない。可憐な顔をピンク色に染め、息を乱している姿が、痛々しくも色っぽかった。
「祝い酒だからって、無理して飲むことないじゃないか」
 二十二歳の健康な四肢をソファにだらしなく投げだした由希子に、ぼくは言った。
「着替えろよ。せっかく買ってやった服が台無しになる」
「べつにお祝いだからって飲んだわけじゃない」
 由希子はピンク色に染まった頬を挑発的に膨らませた。
「じゃあ、なんで飲んだ?」
「やけ酒」
「結婚するのにやけ酒? マリッジブルーってやつかい?」
「違う」
 由希子はちぎれんばかりに首を振り、黒髪のショートヘアを振り乱した。
「……見てたでしょ?」
「えっ?」
「屋上でわたしが浩一さんにしてたこと、お兄ちゃん見てたでしょ?」
 ぼくは一瞬息を呑み、それから誤魔化すように苦笑した。
「偶然だよ。おまえがネックレスを忘れたから届けようとしたんだ」
「それにしては長いこと見てた。浩一さんがわたしの口に出して、わたしが飲むまで全部見てた」
「……悪かったよ」
 ぼくは謝った。事実、悪いことをしたのはぼくのほうだ。にもかかわらず、ただ謝るだけで終わらせることができず、言葉を継いでしまう。
「でも、本当にあの男でいいのか?」
「どういう意味?」
「町田さんって、本当のおまえを知らないだろ? 快活で、いつも元気で、年下だけど頼りになる女だって思われてるんじゃないのか?」
「みんなわたしのことそう思ってるよ。お兄ちゃん以外は」
「だから、それじゃまずくないか? あいつと一緒でおまえらしくいられるのか? おまえ本当は、男に甘えたいタイプだろ?」
「……ほっといてよ」
 由希子は押し黙り、リビングに重苦しい沈黙が訪れた。
「おれはさ……」
 沈黙に耐えられなくなり、ぼくは言った。
「町田さんって嫌いじゃないよ。実直だし、仕事は真面目だっていうし、体力ありそうだし、いまどき珍しいまともな男だと思うよ。だけど……」
「もう決めたの」
 由希子が遮る。
「だって、町田さん約束してくれたもの。新居はこの家のすぐ近くに借りてくれるって。お兄ちゃんが結婚するまで、わたしが週に一回、お兄ちゃんのお世話するためにここに泊まってもいいって」
「よせよそんなこと……」
 ぼくは深い溜め息をもらした。
「おまえの世話なんかいらない。料理も洗濯も掃除も、おれのほうがずっとうまい」
「知ってる、そんなこと」
 由希子はぞっとするような淫蕩な笑みをもらし、ワンピースの背中のホックをはずした。ファスナーをさげるちりちりという音が、ぼくの心臓を締めあげる。動悸を乱す。
「わたしがするお世話は、料理や洗濯や掃除じゃないもの」
 ソファから立ちあがり、ワンピースを床に落とした。
 健康的な下着姿が露わになった。
 健康的であるのに、ひどく淫らだった。
 ベージュのハーフカップブラに包まれたふくらみは深い谷間を刻み、腰は美しくくびれ、ナチュラルカラーのパンティストッキングに包まれたヒップは豊かに張りつめていた。ブラジャーと揃いのベージュのパンティがぴっちりと食いこんだ股間は、二十二歳の牝の色香をむんむんと放ち、ぼくを悩殺した。
「縛ってよ」
 由希子は向かい合わせのテーブルをよけてソファの反対側に来ると、ぼくの足もとにひざまずいた。
「ご奉仕するから、縛って」
「もうやめようって約束したろ」
 ぼくは妹の艶めかしい下着姿から眼をそらした。
 施設の納屋で、ぼくは血の繋がった妹を縛り、生身の尻を叩き、幼い桃割れからちらちらのぞく剥き身の女陰を見て興奮した。ペニスが内側から破裂してしまうのではないかというほど勃起していた。神をも恐れぬ行為だった。しかし、神をも怖れぬ人間がもうひとりいた。
 由希子も興奮していたのだ。
 幼い女陰から甘酸っぱい匂いのする粘液を垂らしていた。
 お互いの性器を刺激し合い、舐めまわすようになるまで時間はかからなかった。
 小五の由希子はもちろん処女で、中三のぼくも童貞だった。
 一年後、お互いがお互いの初体験の相手になった。
 そのときも縛っていた。
 おてんばな妹は縛られると興奮し、妹をかばいつづけているやさしい兄は、縛ると我を忘れるほど欲情するのだった。
「もうやめようって、お兄ちゃん、それ何回言った?」
 ひざまずいた由希子が、すがるような眼を向けてくる。
 血を分け合った妹の躰で性の悦びを覚えたぼくは、激しい自己嫌悪に苛まれていた。由希子もそうだった。由希子が中学に上がったとき、ボーイフレンドができたとき、ぼくにガールフレンドができたとき、由希子が高校や短大に合格したとき。人生の節目節目でかならず「もうやめよう」という台詞が登場し、二度と恍惚を分かち合わないと涙ながらに誓い合った。そして最後の一回だと称していつも以上に激しい性交に没頭しては、やがて約束を反故にすることを繰りかえしてきたのだった。
 ぼくはもう、自分のことは諦めていた。
 由希子以外の女じゃ勃たないし、そもそも眼にも入らない。
 それがタブーを破った代償ならば、結婚なんて生涯しなくてかまわなかった。抱えきれないほどある由希子との思い出を胸に、ひとりで生きてけばいい。
 だが、由希子には幸せになってほしかった。
 子供のころ失った温かい家庭を、今度は自分の力で築いてほしかった。
「無理よ……」
 由希子が大きな眼いっぱいに涙を浮かべて言う。
「わたしももう、お兄ちゃんがいないとダメなの。離ればなれになるのなんて、無理なの……」
「それじゃあ結婚する意味がないじゃないか」
「あるわよ。わたし、きちんと幸せになりたいの。それがお兄ちゃんに育ててもらった、妹としてのわたしの義務だし、恩返しなの。でも、女としてのわたしは……」
「パンスト、脱げよ」
 ぼくはもう、こみあげる欲望に抗いきれなかった。下着姿の身をよじらせ、涙ながらに哀訴を繰りかえす妹の姿に、眼が眩むほど欲情していた。
「縛ってやるから、パンスト、脱げ」

     4

 縛るといっても、なにも本格的なSMをするわけではない。世の中にSM雑誌やSM小説があることは知っていたが、ぼくは見たことも読んだこともない。
 ただの儀式だ。
 悪いことをしているのだということを自覚するための象徴だ。
 立ちあがった由希子が、ナチュラルカラーのナイロンをたおやかな下肢から剥がしていく。白磁のように白く輝く素肌が、ナイロンの下から現われる。
 悩ましい躰だな、といつも思う。蜂のようにくびれた腰、むっちりと張りつめた太腿、引き締まった足首。
 なぜこれほど色っぽいのだろう。犯罪的なまでに魅力的なのだろう。
 パンストを脱いだ由希子が、ぼくに背中を向ける。
 ぼくはブラジャーのホックをはずし、凛々しい顔立ちには似合わないほど大きな乳房を剥きだしにする。
 それから、由希子の手を背中で交錯させ、パンストで縛った。
 由希子の肩をつかんで回転させると、胸もとで白い肉房が弾んだ。
 先端のピンク色の乳首は、すでに痛々しいほど硬く尖っていた。
 ぼくはソファの前にあるテーブルを壁際に寄せてから、ズボンとブリーフを脱ぎ、あらためてソファに腰かけた。
 隆々と屹立したペニスが、熱く脈動しながら天を仰ぎ、先端からカウパーを噴きこぼしている。
「いいのね、お兄ちゃん? ご奉仕してもいいのね?」
 由希子が大きな眼を潤ませながらぼくの足もとにしゃがみこみ、豊満な乳房が弾みあがるほど身をよじる。
 ぼくは小さく、けれどもしっかりとうなずく。
 由希子は潤んだ瞳をまぶしげに細め、ストロベリーピンクのルージュに濡れた唇を、勃起に近づけてきた。
 燃えるように熱い舌を差しだし、おずおずと裏筋を舐めあげる。時間をかけて、稲妻のように血管の浮きたつペニスに唾液をまぶし、妖しく濡れ光らせていく。
「……しゃぶってくれよ」
 ぼくの言葉を待ちかねていた由希子は、餌をとりあげられていた仔犬のように何度もうなずき、ストロベリーピンクの唇でペニスを咥える。竿の上で唇を小刻みに滑らせ、ゆっくりと根元まで呑みこんでいく。口内で大量の唾液を分泌し、亀頭を喉奥の狭まったところに導くころには、口角から泡立つ涎を垂らしている。
 ぼくは立ちあがって由希子の小さな頭を両手でつかんだ。
 腰をひねり、顔ごとペニスで貫かんばかりに突きあげた。
「ぅんぐぐっ!」
 由希子が痛切に悶える。
 はちきれんばかりに勃起したペニスは由希子の小さな口を隙間なく埋め、陰毛で鼻の穴も塞いでしまう。
「ぅんぐっ! うぐぐううっ!」
 だがその声は、苦悶の声ではなく歓喜の声だ。由希子は苦しくされればされるほど感じるのだ。激しいイラマチオは、尻を叩くのにかわってぼくが最初に与えた性的なお仕置きだった。
 由希子は可憐な顔を真っ赤に茹であげ、口角からとめどもなく涎を垂らしながら、しかし口内ではしっかりと舌を使い、頬をすぼめてペニスを吸いたててくる。この練達な口腔奉仕を受ければ、町田などひとたまりもないだろう。
「立てよ」
 ぼくは勃起を口唇から引き抜くと、意識朦朧としている由希子の腕をつかみ、罪人を引ったてるようにして由希子の部屋に向かった。
 年頃の女の子の部屋だ。
 パソコンが積みあげられているぼくの部屋と違って、木蓮や百合の花を思わせる濃密な女の匂いがする。机には、結婚式場の案内やらハネムーン候補のパンフレットが散らかっている。
 ぼくは立ちバックの体勢で由希子の上体をベッドに預けた。
 由希子は背中で交錯した腕を、パンストのいましめのなかでしきりに暴れさせている。ぼくがそれほど強く縛らなくても、由希子はいつもそうやって手首に痣をつくる。情事が終わってから数日間、その痣を愛おしげに眺めている。
 ぼくは突きだされた妹のヒップからパンティを奪った。
 部屋の匂いより何十倍も濃密な獣じみた芳香が、むわりとたちこめた。
 女陰はしたたるほどに濡れていた。
 由希子とまぐわうのは、町田を紹介されて以来だから、半年ぶりになる。
 濡れた女肉に亀頭をあてがいながら、ぼくは全身の肌を泡立てた。
 本当にこれでいいのだろうか。
 ぼくには由希子に内緒の計画があった。由希子が結婚してすぐ、海外に行くのだ。名目は中国・台湾のコンピュータ市場の取材だが、もちろん由希子から離れるためだ。愛しい妹が、血の繋がらない男と温かい家庭を築くためだ。
「ああっ、きてっ! 早くきてっ、お兄ちゃんっ!」
 由希子が切羽つまった声をあげる。
 豊満なヒップをゆらゆらと揺らす。
「はぁああああーっ!」
 ペニスを沈みこませると、甲高い悲鳴をあげ、いましめを受けた総身を反らせた。
 ぼくは腰を振りたて、いきなりフルピッチで律動を送りこんだ。
 カリ首で繊細な女性器の内側をえぐり、子宮底をしたたかに突きあげる。
 由希子の悲鳴が鳴りやまなくなる。
 ヒップの肉と腰がぶつかる乾いた音が部屋中に響き渡っていく。
「ああっ、もっとしてっ! いけない由希子にお仕置きしてっ!」
 由希子が悲鳴の間に叫んだ。
 声が嗚咽にまみれ、あの施設の納屋での出来事がありありと蘇ってくる。
 スパーンッ!
 ぼくは腰を使いながら、由希子のヒップにビンタを放った。
 スパーンッ! スパーンッ!
 右を打っては左を、左を打っては右を打つ。
 まろやかな白い肉に、赤々と手形が残る。
 由希子は一打ごとに断末魔の悲鳴をあげながら、けれどもいましめられた不自由な躰を必死でよじらせて、ぼくのペニスをしゃぶりたててくる。尻朶を打たれるほどに、蜜壺をきつく締めあげて、歓喜を伝えてくる。
 畜生の営みだと思った。
 部屋中が獣の匂いでむせかえるようだ。
 蜜壺からあふれ出した熱湯のような粘液が、玉袋の裏まで垂れてくる。
 抜き差しのたびに花蜜は飛沫をあげ、アナルのすぼまりまでいやらしく濡れ光らせた由希子は、
「はぁおおっ! はぁおおおおおーっ!」
 切迫しきった、発情した牝の声を振りまきつづけている。
 由希子の両膝はいまにも二つに折れてしまいそうだったけれど、ぼくは許さなかった。
 崩れ落ちそうになるたびに、パンストでいましめた両手をつかんで上体を起こした。
 起こしては尻を叩き、勃起で深々と穿った。
 ビンタに呼応して締まりを増す蜜壺の感触を味わった。
 たまらなかった。
 赤く紅潮した尻朶を叩くほどに、ぼくの内側で狂気にも似た快美感が爆発する。
「むうっ……むううっ……」
 背筋に射精の前兆がぞわぞわと這いあがっていった。
 ぼくはビンタをやめて蜂腰をつかみ、連打を放った。
「むうっ……むううっ……も、もう出るぞっ……」
「ああっ、出してっ! お兄ちゃんっ!」
 妹が叫ぶ。
「なかにっ……由希子のなかにいっぱい出してええっ!」
「おおうっ!」
 ぼくは雄々しい声とともに腰を反らせ、最後の一撃を打ちこんだ。
 煮えたぎる欲望のエキスをどくどくと妹の体内に注ぎこんだ。
「はぁうううっ! イクッ! わたしもイクウウウウーッ!」
 由希子は汗ばんだ黒髪を振り乱し、絶叫した。
 恍惚に達した女肉が激しく痙攣し、ぼくのペニスに吸いついてくる。
 男の精を搾りだそうとする。
 なんという心地のいい蜜壺なのだ。
 目尻に涙すら滲ませながら、ぼくは五体を痺れさせる快美感を噛みしめた。
 瞼の裏側に、純白のウエディングドレスを着た妹の姿が浮かんだ。
 勃起が再びみなぎりを増し、とめどもなく射精がこみあげてくる。
 海外に逃げるのなんかやめようと思った。
 妹が結婚してからも、週に一度この部屋に来てもらい、「お世話」をしてもらおう。
 悪いのはぼくじゃない。
 運命だ。

カテゴリー: [日記] - 18:17:00

ページ管理者:草凪 優
イラスト:小玉 英章